【番外】どんなアニメ見るんですか?に対する傾向と対策

相手「へー、TKタローボーさんアニメとか見るんですね、どんなアニメが好きなんですか?」

あまりにありふれた質問だが、この問いには深い見識とセンスが求められる。昔から思っていたがこの質問への回答は難しすぎるのだ。

お互いのプライベートを知らないもの同士の場合、この質問が発生した時点でお互いのCPUが100%で張り付くような心理戦の開幕である。

いちばん無難な回答は置きに行くことだろう。つまり、強く有名で高クォリティのアニメをあげるのだ。

私「好きなアニメは魔法少女まどかマギカです」

私「好きなアニメは化物語です」

私「好きなアニメはFate/Zeroです」

言うまでもなく、いずれも2010年代初期に一世を風靡したアニメである。我々世代のアニメ視聴者は必ずと言っていいほどここを経由してアニメにハマっていく。これらの作品に対して好みはあるものの、アニメとして品質が高いことは言うまでもない。

さすが無難な回答、これなら問題無さそうだ。

という認識は甘い。これには2つの大きなリスクを抱えている。順番に見ていこう。

まず1つ目は、多くの読者にもよぎったであろう’ニワカ認定問題’である。私はまがりなりにも多くのアニメを視聴し、その見識を深めてきた。そのためライトユーザー認定されることはプライドが許容しないのだ。さらにいうとこのニワカ認定は今後のコミュニケーションに支障が出る。

例えば、上司との海外出張前に「英語少しだけ話せますよ」と伝え、実態はネイティブレベルの帰国子女だった場合、相手に恥をかかせる可能性がある。

上司の努力の結晶である日常会話レベルの英会話で取引先と話をして、滞ってしまったタイミングでネイティブレベルの英語を披露する。取引先はこいつと話せばいいかとフォーカスを変え、上司は 初めから言っててくれよ と少し怒るかもしれない。

話を戻そう。今後仲良くなる可能性がある人物には自分のアニメ知識の深さを正確に伝えておく必要があるのだ。

もうひとつのリスクは、相手がこれらのアニメを知らない場合だ。これらが無難な回答たりうる所以はこれらのアニメが[強く有名で高クォリティ]という前提がある。ここを握って相手にぶつけたにも関わらず

「聞いたことないですね、どんなアニメですか?」

と返ってきた日には白目むくことになる。

どどどどどういうこと、、、まどかを知らない!?2011年に何してたんだこいつ!?そもそもこの辺を知らないのになぜアニメの話題に踏み込んできた!?

私の2つのCPUであるfox とrayは使用率100%で張り付くととなる、もしお腹が痛くてそれを耐えるのに5%のCPUを確保していた場合、間違いなくその場で脱糞することになる。

唐突に[魔法少女まどかマギカ]という奇っ怪なワードを投げつけられては、言葉のキャッチボールどころの話ではない。重さも柔らかさも分からない形状の物を人に投げつけてはいけない。そんなものを投げつけては大変なことになる。

実証したければ義理の父親に「魔法少女まどかマギカがさー」と話かけてみれば良い。本サイトのキャッチフレーズを’Never afraid to say what you feel’にしている私でもその勇気はない。

これはいけない、有名タイトルで置きに行く判断は無しだ。鬼滅の刃や進撃の巨人にすればいいじゃないか、と思ったかもしれないがそれも甘い。世の中にはコールドスリープしていたのと変わらないほどの世間知らずが服を着て街中を歩いている。

この質問は即時に回答することが困難なのだ。例えるなら、専門家の集まった2時間特番の冒頭の「パレスチナ問題についてどうお考えですか?」の質問に近い。あの質問は専門家の今後の人生を決めるほどの大きな質問で、ほぼ全ての専門家はこれまでの考えを、長い時間をかけて収録日までにまとめている。これと同レベルの質問が今、私に投げられているのだ。

先程脱糞する原因となった、私の脳内のCPUであるfoxとrayは基本的に優秀である。15分もあれば、そこまでの会話の雰囲気からベストの回答をはじき出す。つまりはこれだ

「私の好きなアニメですね、15分ほどお待ちください」

長い、長すぎる、余りにも長すぎる。15分という時間は片思いのクラスメイトの女の子と話していれば一瞬で過ぎ去ってしまうが、よく知らない人のアニメの好みを知るために待つ時間としては長すぎるのだ。

何しろ円滑なコミュニケーションを求めて質問したのに、15分くれと言い出した挙句、目の前で腕を組んで目を閉じたのである。すれ違う人々はこの2人は重大なトラブルを抱えていると推測するのは間違いない。全くもってその通りである。この質問自体が重大なトラブルなのだ。

この問題の根底に触れておく。

この質問は[気軽に質問したい]質問者と[気軽に回答したくない]回答者の姿勢がパラドックスを生んでいる。アキレスは亀に永久に追いつかないのだ。

更に明確に攻守が別れていることが私を苦しめている。双方が対等であれば、お互い死地に踏み込む様な質問は起きないが、この場合は私が守備側、相手の攻撃に対して一方的に最善手を指し続けなければならない。

身を守る最善手を指すことが出来ても、相手を楽しませることが出来なければ、敗北と同じだ。

相手(つまんねぇなこいつ、ただのキモオタかよ)

血も涙もねぇのかこのド畜生がッッ!!!

いくつかのNG回答を紹介する。例えば 四畳半神話大系と言った硬派なアニメだ。知名度は低いのを承知でオタク色の弱いアニメをあげる。これは良くない、もちろん四畳半神話大系は私のイチオシではあるが、私の趣味嗜好の全貌を表現出来ていない。

素直に趣味全開の回答は当然NGだ。私はデート・ア・ライブが好きです。と言った翌日に職場で広まっていたら、もう誰にも言いふらさないでくださいと泣いてすがることになる。かろうじで相手が知っていても次は

相手「どのキャラが好きなんですか?」

が始まる。本題より難しい質問すんじゃねぇよ!こんな質問に回答していては身を削る量が多すぎる。最終的には昨日の夜何をオカズにしたかまで答えることになるだろう。世間話レベルの損傷ではない、ドミネーターがあれば恐らくデコンポーザーまで出てくるレベルの狂人だったようだ、この相手。

ドミネーター・・・「PSYCHO-PASS」に登場する銃器。相手の犯罪者係数に応じて形態を変化する

デコンポーザー・・・ドミネーターの最終形態。対象の周辺を木っ端微塵に吹っ飛ばす。

強引に攻守を入れ替えるのはどうだろうか。

「先にあなたが好きなアニメを教えてください」

これは良い一手ではないだろうか、この質問に答えることの難しさを相手にも認識させるのだ。己の愚かさを相手に突きつけてやるのだ。

という認識は訂正した方がいい。まず会社員にもなったのであれば、相手を敵と捉える考え方はやめた方が良い。何より相手が抽象的な回答をした場合には惨禍の幕が上がる。

私「先にあなたが好きなアニメを教えてください」

相手「んー色々ですよ、色々」

私「あーわかります、私も色々です」

私「休みの日は何していますか?」

相手「休みの日によりますね、アニメ見るとか」

私「私も休みの日によるかなー?」

これはもう完全にアホの会話である。お互いが自分を出せずに心理戦を始めた挙句、即座に回答をできていない。foxとrayは稼働率100%で演算し続けているのに何のコミュニケーションも成立していない。foxとrayは全力で演算を続けているにも関わらず、何一つも結果が出ていないのだ。どう考えてもエネルギー保存則に反している、こんなことはあってはならない。

もういっそ素直に時間をかけて悩んでいいじゃないか、という発想もあるだろう。色んな作品を見て、色んな物が好きだから困ってしまう、あるがままを見せるのだ。

その考えはマックシェイクストロベリーよりも甘い。アニメというジャンルの都合上、時間をかけるほど不気味になるのだ。

私「えっ、、好きなアニメ、、?あー、え、え、え〜っと、その〜」

どう考えても人に言えないアニメを趣味嗜好としている。深夜アニメの域を超えて18禁アニメや同人アニメの可能性すら見えてきた。手元のドミネーターがパラライザーになっている。素直に時間をかけることが悪手であることが読者に伝わって幸いだ。

パラライザー・・・ドミネーターの形態、相手を痺れさせて行動不能にする。

長くなったが、模範解答を用意した。これを普段使えている読者がいたのなら及第点を取っていると言って差し支えないだろう。

私「最近だと、リコリスリコイル、Engage kiss、サマータイムレンダかな」

これである。最近というニュアンスで最新情報も掴んでいる玄人感を演出し、立て続けに作品を3つあげる。この時守備範囲をカバー出来る3つをあげることがポイントだ。結果的にまだまだ情報を持っているという知識の深さを伝え、趣味嗜好を表現できるのだ。

相手「全部聞いたことないですね、面白いんですか?」

こいつ昨日コールドスリープから解除されたのか!?メジャーどころをわざわざ上げてやったのに悪びれる気配すらない。やはりサイコパスとして政府に認定され、未犯罪の状態で死刑にできる時代になるまでコールドスリープさせられていた可能性がある。

作品名を具体的にあげるのは正しいが、外した時に3つ説明するのはめんどうだ。ここは具体的にかつ抽象的な回答をする方法を伝授する。会社名で攻めるのだ。

私「最近はレベルが高い作品が多いですからね、でもやっぱりシャフトとかPAの作品は好きですよ」

相手「最近はレベルが高いんですね、知りませんでした」

どうやら本当に今朝までコールドスリープされていたようだ。昨今のアニメ市場の拡大規模を知らないようでは程度が知れる。だがもう問題ない、いくつか手段を講じることになったが当初の目的は達成した。玄人感を残し、趣味嗜好を表現し、即座に答える。相手の’知りませんでした’まで引き出し上下関係まで構築した。

この後は最近のアニメから話し始めお互いの趣味の話に盛り上がれば良い。一度アイスブレイクできれば、後は小学生でもできる言葉のキャッチボールでよい。

訂正しておくが上下関係を気にするのは得意分野だけで良い。相手の分野では、相手がコールドスリープ明けのサイコパスでも、最大限のリスペクトをもって接するのが社会人だ。

相手「いろいろ話せて楽しかったです。是非今後ともよろしく。」

差し出された手を握る私。戦争は終わった。仕事を終えたfoxとrayも安らかに休み始めた。嵐の前の静けさというが、嵐の後の静けさにかなうわけが無い。心は穏やかだ。

私「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。」

ん、、、?手が異常に冷たいッ!こいつッ!やはりさっきコールドスリープから解除されたのかッ!

おわり。

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