公式サイト:TVアニメ「勇者、辞めます」公式サイト (yuuyame.com)
【感想・評価】 点数:58
はじめに
単独で魔王軍を倒した主人公のレオは、その強大な力を人間達から危険視されていた。物語は何らかの目的があってか主人公は魔王軍に加わろうとするところから始まる。魔王軍に加わって人間に復讐するのかと思ったら、その実態は魔王軍の業務プロセスを改善するコンサルティングだった。
コメディな流れから入ったかと思えば、後半はガチガチのシリアスな展開となった本作。1クールに収めるにはちょっと無理な設計になっていたため、アニメの評価は低い。1クールのアニメで笑えて泣けるアニメにしようと思ったら、上1%に入るレベルの高さで無ければならない。
物語の概要
1話は主人公が魔王を倒したものの、その後人間から疎まれ、国王からは国から出ていくように言われる始末。そこで魔王軍が人材を募集をしていると言う噂を聞き、主人公は正面から採用希望だと現れる。だが、当然突き返される。
魔王エキドナの側近の四天王に土下座して話を聞いてもらい、身分を隠して魔王軍に貢献する。結果を出してから魔王エキドナに採用OKを貰うまでの物語だ。
物語後半、大体8話までは四天王それぞれの手伝いをしたり、周辺の部下の業務状況の改善・体制の見直しに徹する主人公。業務コンサルというかPMOというかそんな感じだ。一応毎話主人公を通してありがたい話を聞くことが出来る。言ってることは良さそうなのだが、直前の茶番のせいもあって全く内容が入ってこない。
10話以降は魔王エキドナが探していた賢者の石が主人公の中にあると発覚する。魔王軍に殺されることを望むが結果的に助かることとなる。しかし、実際に死の淵まで来た事によって、これから生きるスタンスについて見直すことが出来たようだ。ここで感動してください!と言われているようで真顔になってしまったが、ここで1クール分の放送が完結する。このラストバトルのくだりが長い上にクサいため、結構評判が悪い原因だ。
LowLight
この作品の悪い所は、シンプルに原作者の力不足だ。主人公が魔王軍を改善していく立場にしているため、相対的に魔王軍の人々がバカみたいな事をしているように見えてしまう。作者が凡人であるがゆえに、作者の頭で用意できる秀才が凡人どまりで、それに合わせて周囲のキャラがバカになってしまう、良くあるあれだ。結果として、そのあと繰り出されるありがたい話も全く聞く気にならない。言っていることがどれだけ正しいとしても、だ。言葉は内容よりも誰が言っているか方が重要という悲しい現実を痛感する。
High Light
ここまで良い所無しの本作だが、一応良い所もあった。
特筆しておきたいのは9話の主人公の過去の話。恐らくアニメ至上もっともセリフが多かったインプが登場する回だ。殺されるギリギリのところで見逃されたインプは話をするうちに、生態兵器として作られた主人公がどんどん気かけていく。このインプのエイブラッドさんから寿命が無いことは不幸なことだと、与えられた役割を全うするしかできないことは辛いことだと話す。『苦しくなったら他のことなんか全部ほっぽって逃げろ!辛くなったら自分がやりたいことをやれ!』といい感じのメッセージを主人公ないし視聴者に投げかけてくれる。
どう考えたって過去の自分をテーマにしている。内容は陳腐で退屈だったと思うが、作者のバックグランドが見えるという意味で良い作品だった。話は面白くないのだけどこの原作者多分悪い人ではないのだろう。原作者インタビューを覗くと、予想通り以下のようにあった。
――勇者が勇者を辞めようとする物語もとても新鮮でした。
クオンタム これはもう、当時会社を辞めたいと毎日のように思っていたことが大きく影響していると思います(笑)。
まとめ
作画は全体的に悪くないし、キャラクターデザインもそこそこで、本当にそこそこな土台がある作品だ。作者自身がやりたくないことを辞めて、作家活動としてやりたいことを始めた結果、人生が好転したのだろう。そんなメッセージが込められた本作は結構な熱量を感じる。そんじょそこらの寝る前の妄想みたいな”転生系作品”よりいくつか熱が灯っている点だけは嫌いじゃなかった。若年層で初めて出会った作品がコレだった場合は、神格化する可能性が微粒子レベルで存在する。
ただ、面白い作品を探している貴方に紹介する場合は話が全く変わってくる、本当に話が面白くないからだ。笑いを作る力は平均を下回り、メッセージ性はあるが感動できる物語の組み立てが上手なわけでもない。徐々に紐解かれる真実も無く、「あ、そうだったんだ」とうっすいリアクションになるような事実が唐突に放り投げられる。貴方の時間を5時間ほど使って見るアニメではない。
この作者どれだけ批評を受けようとも、一人でも良いと思ってもらえたら満足していそうだ。やりたい事をやっているんだ!という哲学が確立している作家は向かうところ敵なしなのだろう。話面白くないけど。