第三章「なんでも屋、始めました。」
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マルゼーグについて三日目の朝、目が覚めるといつも静かに眠っている博士がいつもより静かに眠っていた。
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もしかしたら死んでしまっているのかもしれない。博士の豊満な胸元に手を当てると鼓動と体温を感じられたため、そのままそっとしておくことにした。
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恐らくこの後は二日酔いでほとんど機能しないだろう、私は博士が起きて面倒なことになる前に宿を出た。
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今日私がやらなければならない重要なミッションは宿の確保だ。もし見つけられなければ、二人で路地裏の物乞いの仲間入りを果たすことになる。
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人のトラブルを解決しに来た中央魔法研究所の博士を、裏路地でボロ雑巾のように転がらせるわけにはいかない。
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「なんとなく気づいていたんですけど、博士はめちゃくちゃ雑ですね…」
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そう呟きながら私は宿を探していた。なにしろ「どんな宿が好ましいのか?」と聞くと「良い感じのやつ」とだけ返ってきた。
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きっと部下や後輩に対する扱いが雑なタイプだったのだろう。中央魔法研究所に残っていても出世は出来なかったに違いない。
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歩いて探すわけにもいかないので、今日の午後チェックアウトするホテルのフロントの人に、長期泊に向いた宿をいくつか紹介してもらっておいた。
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このリストに書かれた全ての宿で宿泊を断られた時、いよいよボロ雑巾の仲間入りだったが、流石にそうなることは無いだろう。
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最初に訪れたのは、役所通りから離れた場所にある、一家で経営しているらしい小さめの宿だった。長男と思われる若い男の人が受付で対応をしてくれている。
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長期の宿泊は珍しいらしく、全額前払いと言う形になったが、まずは宿を確保することが出来た。
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(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-13]]
博士がここを気に入るかどうかは知らない。全額前金で払ってしまったので文句を言われても知らない。雑な指示に雑な仕事で答える自分が居ることに少し苦笑する。
[[4-12]]
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「正午に私達を訪ねる人が着た場合、部屋まで通していただいて結構です」
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受付の男性にそう伝えて、私は宿を出た。
[[4-14]]
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私は賑わう市場を抜け、役所に向かう。到着した私は個人求人の担当者を待っていた。
[[4-15]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-17]]
担当者が私のもとに駆け付けると、事務エリアの机に案内してもらえたので私は要件を話し始めた。
[[4-16]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-18]]
私が役所に来た目的は二つ。
[[4-17]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-19]]
一つ目は、兵士を教育する事業の求人について志望したいという話。二つ目は博士が作成した張り紙を張りたいという話だ。
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一つ目の話はスムーズに事が進んだ。今日の夜にでも事業の担当者と面接をすることが出来るそうだ。
[[4-19]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-21]]
私の経歴を簡単に書いた紙を役所の担当者がその事業主に渡し、それを見た先方が気に入った場合は今日の夕方頃、私の宿まで話をしてくれるそうだ。
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(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-22]]
二つ目の話はなんというか…煙たがられた。
[[4-21]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-23]]
なにしろ博士の張り紙は抽象度が高く、兎にも角にも雑に仕上がっているため、これでは人が来ないという担当者の助言だった。
[[4-22]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-24]]
さらには支払い能力の確認が簡単に行われ、中央魔法研究所の名前と博士の名前を出すと、ここは簡単にクリア出来た。
[[4-23]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-25]]
ちなみに、博士が書いた張り紙は次の通りだ。
[[4-24]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-27]]
-----------------------------------------------------
あなたのトラブルを解決します。
お仕事・人間関係・魔物退治。あらゆる面であなたのトラブルを解決します!
中央魔法研究所出身の魔法使いと見習い魔法使いが相談に乗ります。
1か月限定のなんでも屋さん!依頼される方は正午にXXXまできてネ!
報酬不要!ジャンル不問!クライアントのプライバシー厳守!
-----------------------------------------------------
[[4-25]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-34]]
あなたのトラブルを解決します。
[[4-27]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-29]]
お仕事・人間関係・魔物退治。あらゆる面であなたのトラブルを解決します!
[[4-28]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-30]]
中央魔法研究所出身の魔法使いと見習い魔法使いが相談に乗ります。
[[4-29]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-31]]
1か月限定のなんでも屋さん!依頼される方は正午にXXXまできてネ!
[[4-30]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-32]]
報酬不要!ジャンル不問!クライアントのプライバシー厳守!
[[4-31]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-33]]
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
[[4-32]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-34]]
XXXには私が先ほど予約した宿の住所と部屋番号を記載してある。
[[4-27]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-35]]
「私は自分の力をひけらかすのが嫌いだ」と話していた博士が堂々と『中央魔法研究所出身』という言葉を使っている。
[[4-34]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-36]]
能ある鷹が爪をギラギラさせて主張している。
[[4-35]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-37]]
報酬不要、ジャンル不問というワードは、もうこれだけでトラブルの種としては十分で、役所からすればもめ事必至のトラブルメーカーに見えたことだろう。
[[4-36]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-38]]
トラブルメーカー予備軍がトラブルを解決するという皮肉のきいたこの広告で、人が来るとは到底思えなかったが、やる事が増えないのであれば私には好都合だった。
[[4-37]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-39]]
唯一気になったのは、この広告を持ち込んだことで、私が役所の担当者にアホの一味だと思われていないか心配なくらいだ。
[[4-38]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-40]]
去り際に担当者から「仕事で発生したトラブルは役所に持ち込まないでくれ」と釘を刺されてしまった。
[[4-39]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-41]]
私は心の底から「すいません、頑張ります」という言葉が出てきた。
[[4-40]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-42]]
宿に戻ると博士は身支度をしていた。
[[4-41]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-43]]
眠そうに徘徊している博士は、まるで体を自動操縦する魔法でも使っているようだった。
[[4-42]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-44]]
「博士、役所に張り紙をしてきましたよ。それと、仕事の方は私の経歴を伝えました。先方が興味を持てば今日の夕方頃、この宿を訪れてくれるそうです」
[[4-43]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-45]]
「はにゃ、あいあい」何とも気の抜けた返事が返ってきた。本当に起きているのか怪しい。
[[4-44]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-46]]
博士の目が徐々に開くようになり、身支度が終わった頃、正午を知らせる鐘が鳴るとそれと同時に「そいじゃ」と言って博士はその華奢な体をフラフラと揺らしながら友人の研究の手伝いに向かった。
[[4-45]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-47]]
夕方の面接までかなり時間が出来てしまった。(そもそも面接があるか自体、微妙だけれど)
[[4-46]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-48]]
休めるときに休むという私のポリシーに則って街をふらつくことにした私は、この旅の景色を一つでも多く見ておこうと思い、散歩に出ることにした。
[[4-47]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-49]]
港町の景色を眺めながら、私の頭はこれから支援することになるだろう訓練学校のことを考えている。
[[4-48]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-50]]
一体どのくらい構想が出来上がっているのだろう。
[[4-49]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-51]]
たった一か月の支援と考えると、実際に訓練学校を出たことがある人から、フィードバックを受けるのが目的といったところか。
[[4-50]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-52]]
私は、あの学校でどんな生活を送っていたのか、軍事訓練学校の頃を思い出す。
[[4-51]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-53]]
過酷で規律に縛られた日々、その中でどのように自分が過ごしていたのかを振り返ると、当時の感覚が鮮明に蘇ってくる。
[[4-52]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-54]]
小学校を卒業して12歳になった私は、ノースアクトン軍事訓練学校に入学した。
[[4-53]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-55]]
アクトン北部は魔物が頻繁に出没する危険地帯であり、武力が強く求められていたため、軍人や武器の扱いに長けた人材を育てる施設・組織が用意されていった。
[[4-54]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-56]]
その結果、田舎町に国でも有数の名門校が存在する事となっていたようだ。
[[4-55]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-57]]
一方、幼いころの私は、自分が他の誰よりも体力的に優れていることに気づくまでに時間はかからなかった。
[[4-56]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-58]]
優秀な兵士だった父の血が私の中に流れていることを、すぐに実感したのだ。
[[4-57]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-59]]
走っても飛んでも、誰かに負けることはなく、長距離走では一番を取っていながらも、疲れている感覚すら無い私は、みんなと同じように限界まで走ったと装い、疲れたフリをする。
[[4-58]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-60]]
私は周囲との違いを感じながらも、その事実を隠そうと努めていた。私は、自分が人よりも優れているという事実の受け止め方が分からなかった。
[[4-59]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-61]]
厳しい訓練と厳格な上下関係が名物のこの学校に入ったのも、父の歩んだ道を自分も進もうと思ったからに他ならない。
[[4-60]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-62]]
教官たちの容赦ない指導は、多くの訓練生にとっては地獄そのものだっただろう。
[[4-61]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-63]]
日々、誰かが学校を去り、また誰かが消えていく。その中で生き残った者たちは、勝者のような誇り高い顔ではなく、消耗しきった疲労感を滲ませていた。
[[4-62]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-64]]
仲間の中には涙を流す者もいれば、ストレスで吐くことが癖になってしまう者もいる。
[[4-63]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-65]]
そんな中、涼しげな表情で優秀な成績を納め続ける私を認めない者も一定数いたが、優秀な者から順に私のことを認めてくれたことを覚えている。
[[4-64]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-66]]
私の学校に対する違和感が嫌悪感へと変わったのは、三年生になる少し前のことだった。
[[4-65]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-67]]
「私は班長に立候補する」
[[4-66]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-68]]
そう私に宣言したその少女の名前は、セシアといった。
[[4-67]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-69]]
彼女は女子でありながらも、男子にも劣らない優秀な兵士の卵だった。彼女の真面目さと努力を、私は尊敬していた。
[[4-68]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-70]]
班長とは、10人ほどの訓練生を束ねるリーダのような存在だ。訓練生に規律を守らせ、成果を管理し、導く役割を担う。
[[4-69]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-71]]
そして、セシアはその立場に立つことを選んだ。体力や射撃、座学の成績を見て教官が選ぶこの役職で、彼女は見事私達第四班の班長に選ばれた。
[[4-70]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-72]]
しかし、その状況を快く思わない者がいることに、私もセシアも気づいていた。
[[4-71]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-73]]
規律と上下関係が厳格な環境で、セシアはしっかりと班員を導いていた。
[[4-72]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-74]]
彼女の指導やアドバイスは班員たちの成績を向上させていたが、やがて体格に恵まれた男子訓練生たちが、彼女を上回る成績を収め始める。身体の成長に差が出てきたのだ。
[[4-73]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-75]]
セシアがその状況に焦りを感じているのを、私は間近で見ていた。
[[4-74]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-76]]
座学の優秀さに加えて、指導やアドバイスが上手なはずだったセシアだが、この頃から自分よりも優秀な成績を持つ班員を相手に、少し気後れしているようだった。
[[4-75]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-77]]
そうして、私達を導くはずのリーダは、徐々に班員の顔色を伺うようになっていった。
[[4-76]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-78]]
それでも、彼女は班員がさらに成果を出すために自分に何ができるかを考え続け、そこに力を注ぐセシアはまるで自分の存在意義を探しているように私には見えた。
[[4-77]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-79]]
彼女は自分の長所を理解していたし、私は彼女の努力の方向性が間違っていたとは、今でも思わない。
[[4-78]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-80]]
「班長は保身のために用意された席ではない。できないなら、降りろ」
[[4-79]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-81]]
セシアに投げかけられた教官の言葉は極めて厳しいものだった。
[[4-80]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-82]]
班員との不和に加え、彼女自身の焦り、立場にすがる彼女の姿勢。全てを見抜いた上での教官の言葉だった。
[[4-81]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-83]]
誰よりも班長として研鑽した彼女は、その学校において誰からも必要とされなくなってしまった。
[[4-82]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-84]]
行き過ぎた実力主義は人の努力や研鑽を蔑ろにする。私はこれが嫌いだった。
[[4-83]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-85]]
生まれ持った体格や体力の差は、努力で覆すことはできず、日々の研鑽は結果に繋がらなければ認められない。
[[4-84]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-86]]
残酷な形をした世界に私の友人は溺れ、沈み、私達のもとを去った。
[[4-85]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-87]]
部屋が少し広くなる。居なくなったセシアを気に掛ける者は居なかった。
[[4-86]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-88]]
才能に恵まれ、環境に恵まれた者たちは、手に入れた力を弱者を排除することに使い、世界はまた少し排他的になる。決まり文句は「ここは実力主義」だった。
[[4-87]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-89]]
周囲からすべての弱者を淘汰した勝者たちは、卒業の日、自分たちは選ばれた存在だと言わんばかりの自信満々な表情をしていた。
[[4-88]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-90]]
優秀な彼らは兵士になる者もいれば、軍事大学に行く者もいた。
[[4-89]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-91]]
あるいは、行政や民間の大企業に進む者も存在しており、彼らのような勝者が社会を率いるリーダとなり、世界はまた少し残酷な形になる。
[[4-90]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-92]]
その形にはめ込まれることを拒んだ私は、輝かしい経歴を実家の机の一番下の引き出しに押し込み、人目の少ない田舎町で細々と生活することに決めた。
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私はこの世界に参加したくないと考え、傍観者でいることを選択した。
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(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-94]]
もし、私に世界の在り方を変える力があったとしたら、何をどんな風に変えるのだろう。
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(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-95]]
世界を変えたいと言って行動する博士の目には、傍観者ではなく、当事者となって見ている博士の瞳には、この世界はどんな風に映っているのだろう。
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(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-96]]
卒業後も、私はセシアと一度も連絡を取っていない。
[[4-95]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-96-2]]
宿のオーナーが私の部屋を訪れたのは、私に対して来客が来ている事を知らせるためだった。私は部屋を出て宿の受付前に行くと、20代後半に見える若い男性が立っていた。
[[4-96-2]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-98]]
「初めまして!ニックと言います。私達の仕事に興味を持ってくれてありがとうございます」明るく、優しい表情で一回り年下の私に丁寧に接してくれた。
[[4-97]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-99]]
「レインです、お時間を頂きありがとうございます」
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(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-100]]
「ノースアクトンを首席で卒業した女性がいるとは噂で聞いたことがありましたが、ハハハ、こんなに綺麗な人だったとは」
[[4-99]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-101]]
「早速ですが近くのカフェでお話をさせていただけませんか?」
[[4-100]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-102]]
是非、と返事をして私はニックとカフェに向かう。その道中で仕事の状況を教えてくれた。
[[4-101]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-103]]
この街で訓練学校を創設するにあたり、カリキュラムや予算を整理しているフェーズにいる彼らは、実際にノースアクトンではどんな訓練していたかを聞きたい様子だった。
[[4-102]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-104]]
それから、実際に現場の様子を見て、想定される問題を一緒に考えて欲しいとのことだった。
[[4-103]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-105]]
カフェに着くともう一人女性が居た。彼女はニックの秘書のような仕事をしているらしい。私は心の中で「付き人って大変ですよね」と声をかける。
[[4-104]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-106]]
私達は、椅子に腰かけ「早速ですが自己紹介を」というニックの言葉を皮切りに、仕事の話を始める。
[[4-105]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-107]]
「レイン・クーハクです。3年前にノースアクトン軍事訓練学校を首席で卒業しています。今は理由があって知人と旅をしていますが、魔物の討伐の経験は豊富なつもりです」
[[4-106]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-108]]
私は続けて、彼らが聞きたいであろう言葉を並べる。
[[4-107]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-109]]
「私が経験した範囲であれば、『どんな場所でどんな訓練をしていたか』、『射撃訓練がどれくらいの頻度で、どの程度行われるのか』、『人数から逆算してかかる費用』の検討などはお力になれると思います」
[[4-108]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-110]]
「その一方で、軍での経験はありません。なので、学校で教える規律やマインドがどうあるべきか、この観点ではあまりお役に立てることはないと思います」
[[4-109]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-111]]
私の経歴を書いた紙を見ながら全く問題ない、という頷きを見せてくれた。
[[4-110]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-112]]
「今度はこちらの番ですね、改めて初めまして。私は~」
[[4-111]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-113]]
彼らは元軍人の起業家ということだった。
[[4-112]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-114]]
偶然見つかった出資者から資金と場所をもらうことで事業は始まり、来年4月から始める学校の細かな設計を進めているのだが、第三者の目線でその内容の妥当性を検証したいという思いがあったそうだ。
[[4-113]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-115]]
その後、この1か月間で私が具体的に何をするかという話をすることになった。
[[4-114]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-116]]
どうやら、学校のカリキュラムの担当、経理担当、設備担当、そして責任者のニックそれぞれと1週間ずつ行動を共にして、ノースアクトンとの差異を感じたら、それを指摘しつつ、修正案を形にしていくという役割が私の主な仕事になるようだ。
[[4-115]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-117]]
説明も明快で段取りの良いニックに出会えて幸いだった。私のここでの仕事は円滑に始まった。
[[4-116]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-118]]
昔話も兼ねてノースアクトンの話をしたあと、私の弓の話になった。
[[4-117]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-119]]
「この時代でも弓を使われるんですね。あ、気を悪くされたらごめんなさい。弓士の方とは初めて会ったので」
[[4-118]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-120]]
火薬を使った武器が生まれてから何十年、何百年とたっている今、わざわざ弓を使う者は少ない。
[[4-119]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-121]]
「私の家は先祖代々弓を扱う一家でして。そこで引き継がれてきた魔道具を使った弓を使います」
[[4-120]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-122]]
「魔道具、ですか」
[[4-121]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-123]]
めずらしい物の登場に目を輝かせてニックは反応する。
[[4-122]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-124]]
「はい、魔物から採れる魔石を持っていれば、魔法術式が組み込まれたこの籠手を通じて魔力で矢が生成されます」
[[4-123]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-125]]
「是非見てみたい!それは銃よりも強力なものですか?」
[[4-124]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-126]]
「威力はどうでしょう、これからの時代では追い付かれるかもしれませんね。ただし、弾の装填がなく、天候も選ぶこともありません」
[[4-125]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-127]]
「ただ、魔法は矢を生成するだけなので、音速で矢が飛んでいく、とか動く的にも必ず命中する、といったありがたい能力はありません」
[[4-126]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-128]]
「もしよろしければ、私達の学校となる場所でお見せしてください!皆にも貴重な経験になると思います」
[[4-127]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-129]]
自分の力を見せびらかすのはカッコ悪い。どこかのクアッドテールがそんな事を言っていた気がする。
[[4-128]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-130]]
今回は仕事上の仕方がないので例外です。と、私はその場にいない博士に対して言い訳をしていた。
[[4-129]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-131]]
私がこの街での仕事を始めて1週間ほどたった頃、もう一つの種が芽を出し始める。博士が書いたあのテキトーな張り紙、あれに対して相談者が現れたのだ。
[[4-130]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-132]]
正午から仕事に向かおうとしていた私と博士は1時間だけ時間を取って、その依頼主と話をすることになった。
[[4-131]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-133]]
あんな張り紙に依頼を持ってくるのはどんな変人だろうと失礼なことを考えていたら、その相談主の姿が見えた。
[[4-132]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-134]]
現れた相談主を見て私は思わず驚く。20代中盤ほどの、整った顔立ちの男性、清潔感があり、いかにも真面目そうで堅実な社会人という印象だ。
[[4-133]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-135]]
「足を運び頂きありがとうございます。こんなところですいません」
[[4-134]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-136]]
いや、本当にスイマセン。女二人で暮らしている無造作に散らかった部屋に、こんなちゃんとした男性を招き入れてしまった。
[[4-135]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-137]]
アホな博士は依頼主を相手に威厳を保とうとしているのか、腕を組んでいる。失礼だから早くその腕を組むのをやめてほしい。
[[4-136]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-138]]
「私はレインと言います、こちらは魔法を研究しているユイレシカ博士です。博士はボランティアで人の相談に乗るのが趣味……にしている人です」
[[4-137]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-139]]
自分で言いながらおかしなことを言っていると思った。ボランティアで人の相談に乗る事を趣味にしている?なんか嫌な奴だな。
[[4-138]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-140]]
「私達でご相談に乗れることであればお伺いさせてください」
[[4-139]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-141]]
男性は少し緊張した様子で頷いた。
[[4-140]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-142]]
「あ、はい、初めまして。私はこの街で小売業をしているアレクと言います。実は私には妻が居るのですが、その様子がおかしく、原因が分からないので困っておりまして…
[[4-141]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-143]]
…そこであの張り紙を見て役所の方に声をかけると、『張り紙の主は若い女性だったから相談に乗ってくれるかもしれない』と言われてお伺いしました」
[[4-142]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-144]]
なるほど、根拠なしであの張り紙に頼るような変人ではないようだ。
[[4-143]]
(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-145]]
女性の悩みであれば女性に聞くのが良いだろうし、妻の悩みとなれば何が出てくるかわからない以上、周囲の人に相談するよりは、赤の他人の方が相談しやすい。
[[4-144]]
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この男性の人柄が読み取れる行動と、意外な営業力を見せてくれた役所の担当者に感心していた。
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すると、隣の腕を組んでいた魔法使いが話し始めた。
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「ユイレシカデス。この子も私の事を博士と呼ぶので、気兼ねなく博士とお呼びください。プライベートな話とお見受けするので守秘義務は必ず果たさせていただきマス」
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「その上で、奥さんは普段何をしている方で、いつごろからどう変わったのかを教えていただけナスか……?」
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大事なところで噛むなよ、博士。さっきまで保とうとしていた威厳が水の泡だよ。私は心の中で突っ込んだ。
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「は、はい。妻は普通の会社員です。普段は友人と遊びに出かけたり、仕事帰りにどこかで食事をして帰ってきたりしていたのですが、8月の下旬頃から急に家に籠るようになりまして……」
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「突然?」私が問い返す。
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「はい、突然です。体調が悪いわけではないんです。ただ、何かを警戒しているようで、まるで何かに怯えているかのようです。優しく聞いても、少し問い詰めても、教えてくれませんでした」
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彼の表情には、深い不安が滲み出ていた。
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「なるほど……。失礼デスが、普段は奥さんとは仲が良いのでしょうか?」
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博士がさらに質問する。
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「はい、かなり仲は良い方だと思います。会話も多いですし、一緒に出かけることも多かったです。男目線での話でしかありませんが、浮気などの問題ではないと考えています」
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「ストーカーとか、そういう類の可能性はありますか?」
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私が質問をする。
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「私もそう考えたのですが、普段の妻はなんでも私に相談してくれましたし、ストーカーであればすぐに私や警察に相談をしようと動く、と思います」
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アレクさんの言う事は論理が通っているし、違和感はなかった。
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ストーカーとかそれ系に近いと思うが、警察やアレクさんに相談しにくい……?ストーカーが実は知人によるものとか?それなら警察に突き出しにくいのも分かるが。
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「なるほど…奥さんとの付き合いはどれくらいデスか?」
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博士が新たな質問を投げかける。その質問の意図が読みづらい。
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「妻と出会ったのは大学の時でして、実際に恋人になったのも付き合ってからすぐでした。なので、16から9年ほどの仲になります」
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凄く長い付き合いだった。真面目なアレクさんのイメージそのままの、真面目な夫婦像が目に浮かぶ。
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「お答えできる範囲で良いので教えて下さい。
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奥さんやアレクさん自身に、何か弱みのようなものが、今現在、もしくは過去にありますか?例えば、ご自身や、ご実家が金銭的に苦しいとか、昔に大きな過ちがあったとか、隠し事があるとか」
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なるほど、付き合いの長さを確認したのはこの質問の回答の確度を高めるためか。
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「いえ、思いつくものはありません。妻が隠し事をしている可能性はゼロではありませんが……そこは無いように思います」
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ありがとうございます、と博士は笑顔で答える。
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「一度、奥様にお会いさせていただくことは可能でしょうか?もちろん、ご自宅で構いません。奥様は外にいる時間を短くしたい、そんな風に感じたので」
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そう博士が提案する。私も同じ印象だった。家の外の何かに警戒しているなら、私達が足を運んだ方が良いだろう。一度本人に会うのは避けられないことでもある。
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「はい、妻に確認してみます……女性同士の方が話しやすいことかもしれませんので」
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「ありがとうございます!ワタシの経歴や旅をしながらなんでも屋をしていることをお伝えください。そして、私達が1か月後にこの街を出ることも、デス」
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「分かりました」と答えたアレクさんに、『奥さんの許可を得たら、ご自宅の住所とお邪魔しても良い日時を書いた手紙を送ってほしい』と博士は伝えた。
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アレクさんは深々と例をして部屋を出て行った。真面目な人だ。
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「ま、一回会ってみてからデスかね」
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そういって体を伸ばすと、「いってきマース」と気の抜けた言葉を発しながらそそくさと部屋を出て行ってしまった。
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アレクさんの発言が合っていることが前提になるが、何かに警戒している時点で人間関係のトラブルなのは確実だろう。
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それも、奥さんが会社には行くが、寄り道はしない程度の警戒。つまりは誰かに「殺す」なんて脅されているわけではなく、ストーカーのように警察に相談してどうこうなる問題でもない。
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(align:"==>")+(box:"=XXXX")[[4-182]]
博士のあの質問は、なにか脅されるような材料があるかを確認する質問だったように思うが、『そんな材料はない』とアレクさんは答えている。うーん、考えても分からない。
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「確かに、一回会ってから。ですね・・・」
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数分遅れて博士と同じ結論を出した私は、部屋を出て仕事に向かった。
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・・・
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